音盤巡り 第4回「ログライン」夏川椎菜
様々な音楽の中からアルバムを1枚取りあげて、アルバムを聴いた感想や、アルバムに対する想い、聴いていた当時を振り返ってみたり、なぜこのアルバムが好きなのか?などなど個人的なことを綴っていく、それが音盤巡り。
今回取り上げるのは夏川椎菜さん「ログライン」です。
正直に言います。
私は夏川椎菜さんのことをほとんど知りません。
TrySailのメンバーである、ということぐらいしか知りません。
なのに何故ここで取り上げるのか?なおかつCDを買ったのか?
まず第1に、アルバムがとても良い…という噂話を聞いたこと。
第2に、以前に少しだけ夏川さんのブログを読んだことがあり、面白い文章を書かれる人だなぁ、と思ったこと。
第3に、自分の音楽好きとしての嗅覚が「これは聴いてみた方がいい気がする」と嗅ぎ分けたこと。
以上、この3点のみで買って聴いてみようかな、と至ったわけです。
CDショップでよくあるジャケ買いの感覚に近いです。
なので聴いてからあれこれ夏川さんのことを調べたり、今作のインタビューを読んだりしてます。
まず全曲通して聴いてみて思ったことは「声優さんにしては刺激的な内容のアルバムだなぁ」と。
どストレートにポップな感じというわけでもなく、ロックやEDMテイストの曲が入り混じっていて、どこかシニカルさを感じさせる。
捻くれているような、独特さや唯一無二な感じ。
しかしその感じが、シニカルさや捻くれた感じが逆にアルバム全体にまとまりを生み出していて。
聴いていると「あれ?もう終わった?」とあっという間に過ぎ去ってしまう。
一通り聴き終わってからインタビュー等々を読ませて頂いたのですが、ご本人はソロ・デビューするまで積極的に音楽を聴く方ではなかったとのことで。
ソロでデビューすることにも乗り気ではなかったことや歌に対して苦手意識を持っていたことも語られており、そのスタート・ラインから今は積極的に自分から口を挟みにいき、このアルバムが作られたというのは驚きました。
定額制音楽ストリーミング配信を使って色々な音楽を聴きまくって、吸収して自分の趣味志向を探って、そこへ辿り着くというのは簡単にできることではありません。
声優業もあり、TrySailでの活動もあり、その最中でそれを行なっていたというのは並大抵のことではないと思います。
音楽的な引き出しを増やしていき、今作では3曲作詞も手がけ、歌手として・アーティストとして活動するのであればとことん拘ってやろう、という強い意志を感じました。
アルバムに収録されている各楽曲に少し触れていこうと思います。
3rd Singleとしてリリースされている既発曲『パレイド』から幕を開けますが、この頃には音楽制作に積極的に口出し・携わっていっていたそうで。
歌詞も自身のネガティヴな想いを反映させた内容になっているようで、それを綺麗に歌い上げていて、実にエモーショナルな匂いを漂わせていますね。
問題は『ステテクレバー』です。
いやぁ、ロックテイストなサウンドにめちゃめちゃシニカルな歌詞でなんとも痛快な曲ですね!
歌詞見てちょっとビックリしました。
この子、こんなにも斜に構えたシニカルな歌詞を描くのか、と。
一発でこの曲は好きになりましたね。
『イエローフラッグ』もなかなかに歌詞が強い癖のある曲ですが、こういう曲も歌えてしまうというのは強みだと思います。
『キミトグライド』はふわっとした歌い方をしていて、アンニュイさを感じさせます。
各楽曲で歌い方にもかなり拘っているようですね。
『ラブリルブラ』とかもちょっと舌ったらずのような歌い方が逆にハマっていたりして。
『gravity(Album Ver.)』『Daisy Days(Album Ver.)』『グレープフルーツムーン(Album Ver.)』の3曲はシングルでリリースした時とは異なるミックスを施しているそうで。
聴き比べたりするのも面白いんじゃないかなぁと思ったり。
個人的には『グレープフルーツムーン(Album Ver.)』の作詞が大好きなバンドthe ARROWSのボーカリスト坂井竜二さんで、作編曲がこれまた大好きなクラムボンのミトさんというのがね、思わず胸が熱くなりますね。
『チアミーチアユー』も作詞を夏川さん自身が手がけられているそうで、作詞に当たって“君のベースに”の後にスラップベースを入れるようにリクエストしてるところとか、最高じゃないですか。
『ファーストプロット』もご自身で作詞されて、今まで歩んできた音楽活動について綴っているそうで。
そういう視点で聴くと胸に迫るものがあるように思います。
思わずグッときてしまうというか、紆余曲折しながらも自分らしく唄える歌へ辿り着いたというのがね、美しいなぁと。
誰かのためじゃなくていい、自分のためでもいい。
自分が自分らしく唄えるのであれば、それでいいと思います。
自分がこうしたい、ああしたいと思う通りにやってくれた方が、聴く側として嬉しいと思ったり。
全体的にとてもバランス感覚に優れたアルバムになっていて。
今年、リリースされた声優さんによるアルバムの中ではダントツで良いアルバムだと思います。
名盤といっても差し支えないと思います。
歌い方は声優としての特性や技術を活かしているのに、アーティスト視点で制作に拘っているというのはなかなかに面白いです。
次のアルバムの頃には作曲もできたら、とインタビューで語っていらしたのを見かけて早くも2ndアルバムへの期待が昂まってしまいます。
01.パレイド
02.ステテクレバー
03.ナイモノバカリ
作詞:ワタナベハジメ 作曲・編曲:Haggy Rock
04.イエローフラッグ
05.gravity(Album Ver.)
06.キミトグライド
07.フワリ、コロリ、カラン、コロン
作詞:雪沢実花 作曲・編曲:植松芳裕
08.Daisy Days(Album Ver.)
09.チアミーチアユー
10.シマエバイイ
作詞・作曲・編曲:SHIBU
11.ラブリルブラ
作詞・作曲:田中秀典 編曲:川口圭太
12.グレープフルーツムーン(Album Ver.)
作詞:坂井竜二 作曲・編曲:ミト(クラムボン)
13.ファーストプロット
参考インタビュー