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小松未可子「Personal Terminal」ディスクレビュー

前作「Blooming Maps」より約1年2ヶ月。
シングル「Maybe the next waltz」「Swing heart direction」のリリースを挟み、
通算4枚目となるアルバム「Personal Terminal」が発売されました。
今作もプロデュースはQ-MHzによるもの。
制作自体は昨年の夏からすでに始まっていたとのことで、
「Blooming Maps」が『名刺代わりになるような1枚』とのコンセプトの元で制作されたアルバムでしたが、
今作はどのようなアルバムとなったのか?
紐解いていってみようかと思います。 

まず初めに今回のアルバムですが、正直に言います。 

前作「Blooming Maps」よりもインパクトは薄いと思います。

前作はQ-MHzプロデュースとなってからまだ「Imagine day, Imagine life!」しかリリースされておらず、
どういった方向性で楽曲制作しているのか?
小松未可子さんのどんな歌声を聴くことができるのか?
未知数な部分が多かったために「Blooming Maps」を聴いた時の驚きや斬新さに大きな衝撃を受けました。
今回はそれから「Maybe the next waltz」という化け物みたいな曲と「Swing heart direction」と2枚のシングルを挟んでのリリース。
未知数だったものがたいぶ開けていたので、大きなインパクトはないように思います。
しかし、だからと言って悪いアルバムというわけではありません。
細かく「おっ?」と驚かされるところはちらほらとありますし、前作よりも深みが増して味わいのある、とても良いアルバムとなっていると思います。

それは小松未可子さんという個、パーソナルに焦点を絞ったゆえに生まれた効果だと思います。

realsoundにて記載された小松未可子さんと田淵智也さんの対談インタビューにもありましたが、

「Blooming Maps」では『強い大人の女性像』を一本の軸していたのが、そこにこだわらなくていいとわかったからこそ、軌道修正がなされた。

自然体で音楽を楽しむ小松未可子、を掘り下げていくことで幅の広がり方が変わったのだと思います。

realsound.jp

「Imgine day, Imagine life!」のリリース発表時掲げられた小松未可子さんの音楽活動におけるテーマ『派手に、美しく、自然体に』により近づいたと言えます。 

小松さんの着実な成長を垣間見せつつ、アルバム全体としてとてもバランスが良くて、聴けば聴くほど『良いアルバムだなぁ』と思わされます。

小松さん自身がいくつかラジオ等にゲスト出演されていた時に語っていた『世界は背負えない』という言葉。

これはとても真理を突いているなぁと思います。

大き過ぎるテーマで描いた楽曲は却って聴く人を遠ざけてしまう可能性があります。

身近なことを描いた楽曲であるからこそ、感情移入したり、聴く人の日常に寄り添うことができる。

パーソナルであるからこそ生まれるポピュラリティ。

ポピュラーでありながらポピュラーの質が違う、とでも言っておきましょうか。

またその『Personal』が『Maps』という旅を経て『Terminal』という点へ結びついているのが面白いですね。

小松未可子さんとQ-MHzとの関係値がより高く、強くなったからパーソナルな部分に踏み込んで作ることができたのだと思います。

これは個人的なことなのですが、私が音楽を聴く上で大切にしていること、好きになる基準として『聴く人とともに歩んでいく歌』というものがあります。

このアルバムに収録されている楽曲たちはそれに近い感覚を持っていると感じています。

さて、各楽曲を掘り下げていってみましょう。

 

01. Restart signal

ストリングスがふんだんに盛り込まれ、壮大さが漂う浮遊感のある楽曲。
MVも作られた今アルバムのリード曲でもあります。
ストリングスが盛り込まれた1曲目、ということでふと「Sky message」(2ndアルバム『e'tuis』収録)を思い出します。
面白いことに「Restart signal」の歌詞が出だしが、
“変わってしまう 街も夢も”
と移り変わるものに対して「Sky message」も、
“移りゆく季節の中”
と移り変わっていく様を描いているという点。
これは意識しているのかいないのか、気になるところですね。
付け加えると・・・
“別れのあと 出会いがある / そう思える Restar signal / なんども始めよう Restart signal”(Restart signal)
“心音を抱いて / 大丈夫 行けるから / 君と共に 今 飛べる / 愛の鳴る方へ”(Sky message)
と終わりの歌詞も『先へ進む』という点で微妙にリンクしているようにも思えたりします。
とはいえどちらもまったく異なる楽曲であり、どちらが優れているといったことでもなく。
対比しているように感じられて面白いなぁというだけです。
これまたどちらもMVが作られたリード曲である点も面白いですね。
 
この曲はすでに各対談インタビューでも語られている通り『名曲感のある曲を作ろう』と狙って作られた楽曲。
ストリングスのアレンジが絶妙で、楽曲の壮大さを引き出しています。
壮大さを感じさせながらもしっかりと地に足のついた歌詞であるのが、また楽曲の良さを引き出しているように思います。
“がんばったって / それだけじゃつかめないけど / わかった顔で あきらめはしないんだ”
の詞は小松さん自身にとても通ずる詞のように思います。
“憧れをもっと / 追いかけたがる自分のままで”
の部分も今までの小松さん自身の活動に繋がってるように思います。
またこの1曲目からすでに、明らかに小松さんの歌い方が違うように思います。
すごく肩の力が抜けているというか、ナチュラルなんですよね。
楽曲に合った、解放感を感じさせるような歌声だと思います。
 
 
02. Jump Jump Halation!
ヘヴィなギターリフと、ボンボンと力強い重低音のベースで幕を開け、テンション高く小松さんが叫ぶ出だしから始まる楽曲。
ギター、ベース、ドラムのシンプルな構成で、アッパーでゴリゴリなロック・ナンバー。
ライブを意識して作られた楽曲、とのことで勢いがあって、聴いていて気持ちが良いです。
2曲目にこの曲を配していることから、ここから何が始まるのか?という期待感を煽っている感じがしますね。
イントロのギターのカッティングがとても印象的ですね。
ふとTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT「世界の終わり」のイントロを思い出しました。
まぁ、こんなこと思うのは私だけでしょうね(苦笑)
“大した事じゃなくたって 大した事って言おうよ / ほら胸張ってごらん 私が肯定してあげる”
と、歌詞もかなり前向きな内容になっていて。
“心配はない、今だけは私にゆだねろ!”
の詞には、小松さんにこういうことを歌わせちゃうんだ・・・とちょっとニヤッとしてしまいますね。
イントロで「Hey!」って叫んだり、間奏で「Fuuuu!」と叫んだり、キュートな小松さんも垣間見えたり。
あとサビの“I listen to your heart.”の後に鳴り響くジャガジャーンというギターのフレーズがロックっぽさを醸し出していて好きです。
“終わりまでボリュームはそのまま!”とラスサビで歌い、このアルバムを聴いている人たちに向けてのメタファーになっているようにも感じれるのは面白いですね。
 
03. SPICE MISSION
ビッグ・バンド・ジャズっぽさも感じる70〜80年代モータウンな楽曲。
モータウン、というはソウルミュージックの一種のことです。
この楽曲のキー、要となっているのはブラスとオルガン、クラビネットとコーラスでしょう。
それがアクセントとなってモータウンな感じを引き出しているように思います。
クラビネットドゥーワップなコーラスなんかは特にそうですね。
“Dabada dabada”や“Shabada da da”など、歌詞にスキャットを取り入れているのも面白いですね。
こういうスキャットもさらっと歌いこなしている点でも、小松さんの歌が上手くなっているのが感じ取れます。
あとこの楽曲のリズムは非常に心地良いですね。
歩くテンポに合うというか、軽快なんですよね。
軽快さと小松さんの歌声が合わさって聴き心地の良さが相乗効果で高くなっているように思います。
また、Q-MHz田代智一さんがディレクションを手がけられたMVがなかなか面白い。
小松さんが餃子を作る様子を捉えたMVなのですが、可愛らしさに溢れていて、ズルいなぁと思います。
 
既発シングル曲。
TVアニメ「ボールルームへようこそ」のタイアップがあったからこそ生まれた曲。
この曲に関してはシングル・リリース時に、レビュー書いてますので簡単に。
改めてこうして聴くと、本当に化け物みたいな曲だなぁと思います。
何度聴いても小松さんのファルセットが心地良いですね。
アルバム全体としてM1〜M3でがっつりとリスナーを掴みに行って、ここでこの曲を持ってくるというのは巧いですね。
前3曲とは異なった小松さんの歌声を聴くことができるので、よりグッとこのアルバムの世界へ惹き込まれていくように思います。
05. 海辺で逢いましょう
アーバンメロウなサウンドが特徴的な楽曲。
ジャジーな感じも持ちつつ、シティ・ポップフリー・ソウルにも通じる洗練されたサウンドですね。
エレキギターとアコギの音が左右で異なって聴こえてくるのが心地良いです。
まだベースとドラムのリズム隊が絶妙なグルーヴ感を生み出して、非常に良い味を出していると思います。
恋の始まりを感じさせる歌詞と、とてもアンニュイな感じで歌う小松さんの歌声が相まって、聴き心地の良さが半端ない。
こういう歌い方をする小松さんの歌を聴くのは初めてな気がします。
コーラスの囁きも非常に心地が良い。
アウトロのアコギがどこか淡く切なくて、ここもポイントですね。
個人的に推し曲です。
ライブではエレキとアコギ、どっちでアレンジして演奏されるのか、とても楽しみです。
 
06. カオティック・ラッシュ・ナイト
ギターの演奏と編曲にTom-H@ckさんが参加した楽曲。
イントロからギター・サウンドのアンバランス具合が目立つ楽曲。
右と左でまったく違って、違っているのに上手く混じり合っていて。
なんとも不思議なサウンドの楽曲ですね。
まさにタイトル通りカオティック。
ツイン・ギターの面白みがはっきりと出ているように思います。
またキーボードが良いアクセントを生み出していますね。
キャッチーで疾走感があって、でも歌詞は夢オチのストーリーで描かれていて。
不安定ながらもグッと惹きつけられる楽曲だと思います。
「真夏の夜のパレード」(『Maybe the next walz』収録のカップリング曲)と対となるような曲のようにも思えます。
しかしまぁ、小松さん歌うの大変そうな曲だなぁとも思い、ちょっと苦笑いしたり。
この曲もライブではどういうギターアレンジで演奏されるのか、気になりますね。
追記
こちらもQ-MHz田淵智也さんによるMVが公開されましたので、追加しました。
なかなか面白い展開の、まさにカオティックなMVですね。

www.youtube.com

 

07. Happy taleはランチの後で
「小松の夜のパレード」TOURにて、会場限定&通販限定で販売されていた曲ですね。
こちらも別途で書いておりますので、簡単に。

小気味の良いバンジョーの音とギターのカッティング、軽快なスカのリズムに思わず体が揺れてしまうポップな楽曲。

疾走感がありながらもカオティックな前曲から、この軽快な楽曲へと繋ぐ高低差が面白いなぁなんて思います。

またこの後にウェットなM08「Pains」へと繋げていくのも面白いですね。

 
08. Pains
Q-MHz畑亜貴さん曰く「毎回、1回は泣きたい」と作られたウェットな曲。
ストレートなバラード、ではないけれどアコギを主体としたシンプルなサウンドと歌詞がグッと胸に迫ります。
いやぁ、この曲は本当に歌詞がとても良くて・・・
1番Aメロ “だけど想いが流されてく / 欲しかった約束は もういらない”
1番Bメロ “どうして二人なのに / さみしいって感じるの?”
サビ “誰かを愛することから / わかった痛み / それでもきっとまた繰り返す / 痛いけど・・・”
2番Aメロ “本当の自分に向かいあえば / 新しいはじまりを 望んでるんだろう”
2番Bメロ “過去形の二人では / 明日には触れられない”
グッと来るフレーズのオンパレード。
歌詞を書き出すだけでちょっと泣けてきます。
サビの歌詞が本当に秀逸過ぎて・・・
人と人の出逢い、交わり、関わり合いにおいて核心を突いているなぁと。
どれだけ傷付いても、どれだけ痛くても、また他者を求めてしまう。
こういう曲を過度に情感を込めることなくさらっと歌えてしまうのが、小松さんの凄いところだなぁと改めて思わされたりします。
あと付け加えるとしたら、ライブでもっとも化ける曲だと思われます。
 
09. M/MASTER
小松さんとQ-MHzのメンバーのみで普段演奏しない楽器を演奏し、作られた楽曲。
マリンバ、ピアニカ、グロッケン、リコーダーが入っているからなのか、
トイミュージック、トクマル・シューゴっぽさを感じます。
歌詞は畑さんが「ドSみかこし」と「シリアスみかこし」と「おまぬけみかこし」の3パターン作り、小松さん自身が選んだ「おまぬけみかこし」パターン。
他の歌詞がどんな感じか気になるところではありますが・・・
全体的にサウンドも歌詞もふわっとしていて、なんだか聴いていてホッとするような感じがします。
前にM08「Pains」という泣きの曲、後にM10「おねがいフューチャー」という勢いのある曲が控えている中で、
こういう曲をこの位置に配しているのはアルバム全体のバランス的に面白いですね。
しかし、この曲・・・ライブはどうするんだろう?という疑問が尽きません(苦笑)
 
10. おねがいフューチャー
超ハイテンションで一気に駆け抜けていく、疾走感に溢れるどころか勢い余って3回転ぐらいしてしまいそうな楽曲。
田淵さんが所属しているUNISON SQUAIR GARDENの持ち曲にあってもおかしくないような曲ですね。
畳み掛けるような言葉数の歌詞とキレッキレのバンド・サウンド
でも実際はそんなに言葉数がめちゃめちゃ多いわけでもないのですが・・・勢いがあり過ぎて、そう聴こえるのでしょうね。
「short hair EGOIST」(Q-MHz名義のアルバム『Q-MHz』収録)の進化版。
いや、進化というよりは、あの曲よりもやりたい放題やり切った、とっ散らかしたような曲だと思います。
新井弘毅さんのギター・プレイが冴え渡っているのもまた個人的には嬉しいところ。
ラップや掛け声もあって、ライブでは盛り上がるのは間違いないでしょうね。
あとは小松さんが歌詞を間違えずに歌えるかどうかですね(笑)
 
既発シングル曲。
こちらもシングル・リリース時にレビューを書いてますので、簡単に。
M10「おねがいフューチャー」の流れからこの曲に繋げるのか、とちょっと意外に思いました。
ですが、こうして曲順通り流れで聴くと不思議としっくり来ますね。
改めて聴くと、小松さんの歌声とピアノの相性は本当に良いなぁと思います。
もうちょっとピアノをフューチャーしたような曲もまた聴きたいですね。
 
12. Romantic noise
華やかなホーン・セクションが鳴り響き、幕を開けるジャジーな楽曲。
M04「Maybe the next waltz」と同時期に作られ、シングル候補曲の中の1つが元となっているそうで。
ちょっと「Maybe the next waltz」に通じるような感じがしますね。
鮮やか且つ華やかなホーンと流麗なピアノが実に気持ち良い。
編曲に伊藤翼さんが参加されており「Catch me if you JAZZ」(『Blooming Maps』収録)「Maybe the next waltz」「Piña colada & Caipirinha」(『Swing heart direction』収録のカップリング曲)に続き、またしてもやってくれたジャジー・ポップ枠。
歌詞も曲に寄り添うように素敵な内容になっていて。
“ひとりになった時は まずは空を見上げよう / この涙がこぼれないように”
“待って このまま行っていいの? いいのかな / 強がるばっかの私を やめたらまだ間に合うかも”
とか、良いフレーズがたくさんあります。
面白いのがすれ違いはじめた二人を音楽におけるnoiseとして捉えているところがね。
“お互い違う曲弾いてる”とか“合わない和音(コード)響いて弾き直し”とかね。
それでサビで“Romantic noise”と歌っていたのに、最後に“Romantic!!”だけになってnoiseがなくなっているのとか、良いですよね。
その“やり直してみよう Romantic!!”というフレーズがM01「Restart signal」に繋がっていたりして、面白いですね。
小松さんはこういうジャジーな楽曲を歌うのがとても似合うようになってきたなぁなんて思います。
間奏での“トゥルリラッタ トゥルリラッタ トゥルリラッタラッタラ”とここでもスキャットみたいな歌い方をしていたり。
とても聴き心地が良くて、この間奏だけ繰り返し聴きたくなったりします。


小松未可子ニューアルバム「Personal Terminal」クロスフェード

さて、長々と書いてまいりましたが・・・

今作も良いアルバムになっていることは間違いないと思います。

何より、彼女のポップシンガーとしての成長と魅力が詰め込まれている、と思います。

歌い方がよりナチュラルに、肩の力が抜けて自然体になってきたなぁと思います。

今作は自然体で音楽を楽しむ、小松未可子さんの歌声をじっくりと堪能することができる、そういうアルバムなんだと思います。

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natalie.mu